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「源義経黄金伝説」 飛鳥京香・山田企画事務所           (山田企画事務所)

第3回■静を取り巻く鎌倉の暗闘!

■義経黄金伝説■第3回■


第1章 一一八六年 鎌倉八幡宮
2 文治二年(1186)四月八日(承前)

大江広元(おおえひろもと)は、これから奥州平泉を攻めようとする頼朝にとっては勝利を確約する、いわば勝利の女神であった。
なぜなら、大江広元の曾祖父は、奥州攻略を成功させた八幡太郎の知恵袋だったのである。いわゆるプランニングマスターである。
占いの専門職。
占いはこの時期の総合科学である。広元は恐怖を感じて青ざめている。
このままでは、会場の武士を味方にしてしまう。大殿はいかに、頼朝をかいま見る。

政治顧問である,荒法師の異名をとる文覚(もんがく)でさえ、静の舞に内心は心動かされていた。

文覚は若い頃、北面の武士の折、色恋沙汰で殺傷事件を起こしている。感情の高ぶりをおさられないのである。この感情の濃さがいい具合に発露すると、それが、勧進となった。

また、頼朝に対する挙兵のアジテーションとなった。いわば、頼朝のメンターである。

頼朝とは幼き頃、朝廷で顔を見知り置いている。
その後、文覚は数々の荒行をこなし今は、江ノ島で、藤原秀郷の呪殺を、頼朝から依頼され、とり込んでいる。

先年、後白河法皇から許可を受け、京都から、頼朝の父、義朝の骨を発見し、クビからぶら下げ、東海道を下るという鎌倉幕府成立のパーフオマンスを行い帰ってきたばかりである。
この寺は、勝長寿院・大御堂という。

骨の髄から、頼朝は、平泉を恐れている。
16万の軍旗が、義経という天才に率いられて鎌倉を背後から、また海から襲ってくる事。おそらく、この日本で、義経は最高の軍事指揮官であろう。
それは頼朝もいらなぶ、坂東武者もわかっている。
傍らに控える大江広元も、文覚も理解しているだろう。
この勝利はまさに義経のおかげである。
そのため、そのおもいものである静かが、ここで、頼朝に対して恭順のいを著わすべきであった。が政子が、、意図と違う事を、わずかながら、意思の疎通がうまくいかぬ。

また、最大のネゴシエイター西行が、この鎌倉を目指していると文覚から、聞いている。
京都王朝で、始めて伊勢神宮と、東大寺の手を握らせた男。後白河法王の意図で動く男。
そして義経とも、平泉とも、近しい。

この坂東でも、佐藤家の威光は輝いている。加えて、当代一の詩人・この文学的功名は、京都貴族の中において光り輝いている。
いわば京王朝のエースカード。ジョウカー。

また、平泉にとっても最強の交渉カード。
まして、民衆の指示を受けつつある重源(ちょうげん)の友人。
後ろには結縁衆。
恐らくは東大寺を始めとする京宗教集団の力も。
意図は何か。西行は1万の武装集団よりも怖い。
頼朝はそう思った。

源氏は鉱山経営と関連が深い。
祖先・源満仲は、攝津多田の庄(現・兵庫県川西市)の鉱山経営の利益を得ている。

能勢・川辺・豊島三郡における鉱脈を支配し、最盛期2000を越える抗を穿っていた。
鉱山の警備隊として武士団を養い、鉱山経営のうまみを知った源氏は、その後、京都大江山鉱山の利権も手にした。

いわゆる大江山鬼退治の伝説であ。

源氏は一族の血の記憶として,鉱山経営のうまみをしっている。
目指すは奥州金山である。
源氏の護り神、八幡神は、産銅・産鉄神である。
最終目標は奥州。
また、そのためにもこの独立運動はまもらねばならぬ。

東国王朝は、源氏の悲願である。奥州平泉王朝を打ち倒す事もまた。

それぞれの思いの中やっと頼朝は、言葉を発した。

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 観客席の中央にいる源頼朝が、急に怒鳴っている。
「あの白拍子めが。この期に及んで、ましてや鎌倉が舞台で、この頼朝が面前で義経への恋歌を歌うとは、どういう心根じゃ。この頼朝を嘲笑しているとしか思われぬ」

 頼朝は毒づいた。それは一つには、政子に対するある種の照れを含んでいる。
「よいではございませぬか。あの静の腹のありようお気付きにありませぬか」
 政子はとりなそうとした。薄笑いが浮かんでいることに、頼朝は気付かぬ。

「なに、まさか義経が子を…」
「さようでございます。あの舞いは恋歌ではなく、大殿さまに、我が子を守ってほしいというなぞかけでございます」
「政子、おまえはなぜそれを……」

 疑惑が、頼朝の心の中にじっくりと広がって行く。
今、このおりに頼朝に、自分の腹の内を探らせめる訳にはいかぬ。
あのたくらみが、私の命綱なのだから。政子は俯きながら黙っている。

「……」
「まあよい。広元をここへ」
 頼朝の部下、門注所別当・大江広元が頼朝のもとにやってくる。

「よいか、広元。静をお前の観察下に置け。和子が生まれ、もし男の子なら殺すのじゃ」
[では、殿。もし、女の子ならば、生かして置いてよろしゅうございますな」
「……それは、お前に任せる」
 広元はちらりと政子の方を見ていた。
 頼朝は広元と政子の、静をかばう態度に不審なものを感じている

 政子は静を一眼見たときから、気に入っていた。その美貌からではなく、義経という愛人のために頑として情報を、源氏に渡さなかった。
その見事さは、一層、政子を静のファンとした。
また、京の政争の中に送り込まれるべく、その許婚を殺されたばかりの、政子と頼朝の子供大姫をも味方に取り込んでいた。

義経の行方を探索する人間は、何とか手掛かりを取ろうと静の尋問を続けた。
が、それは徒労に終わった。
尋問した者共も、顔には出さなかったが、この若い白拍子静の勇気を心の中では褒めたたえていた。

 観客席の中で、静の動静を悩む者が、もう一人。
静の母親磯禅師(いそのぜんし)が、固唾を呑んでその舞いを見ていた。

裏切られた。そういう思いが心に広がっている。愛娘と思っていたが、

「あの静は、この母が苦労を無にするつもりか……」
やはり、血の繋がりが深いものは…。

この動乱の時期に女として生き残って来た者の思いが、頭の内を目まぐるしく動かしている。
その思いは、しばらくの前のことに繋がる。
禅師は、政子の方を見やった。

   4
「どうか、政子様。我が子静の腹を痛めし子供。生かしてくださいませ」
 この舞いの数日前、鎌倉・頼朝屋敷で、許しを得て、床に吸い付くほどに、禅師は頭を下げている。
「それはなりませぬ。禅師殿。私が頼朝の妻たること
を頼んでこられたと思いますが、私も頼朝殿と同じ考えにございます。思い起こせば平清盛殿の甘さ、頼朝殿や義経殿を生かしておいたが故の平家の滅亡。この源氏も同じ轍を踏みたくはありません」
 冷たく、政子は言い放った。

 禅師は、もはやあの計画しかあるまいと思い詰めた。頭を上げる。

その目には、政子のふくふくしい顔がある。が、その目は冷徹な政治家の目であった。
 さてはて、どのような反応をするものか、禅師は心の中でほくそ笑んだ。
「が、政子殿。政子殿も頼朝殿も、現在祈願せしことございましょう」

「われらが祈願せしこと………」
 思った通り、政子の顔色が変わる。
それを見て禅師は続けた。
ずるがしいこい表情をちらりと見せる。
「大姫様を天皇の後宮にお遣わしになること、本当でございましょうか」
 小さく呟く。禅師の言葉に、政子は驚ろいている。

「どうして、それをあなたが」
 大姫のことになると、政子も甘いのである。

政治家ではなく、母親の顔になっている。
「そのこと、都では噂でございます。清盛殿も同じように娘を皇家に捧げられた。平家の繁栄の礎はその婚姻から始まっていること、京都の童でも知っております。遠くは藤原氏が天皇の外戚となり、権力を握ったこと、知らぬものはござりますまい。それゆえに頼朝殿も大姫様を宮中にあげしことを願うは、これは親の常」

 禅師は政子の表情が、少しばかり落ち着いて来るのに気付く。
政子は、ここは一つ、この女の話を聞いてみてもよい。
悪い話ならば断り、最悪の場合この女を亡き者にすればそれで済む。

「して禅師殿、大姫の話と、義経殿の和子を助けるのと、いかような拘わりがあると申すのか」

「私、少しばかり、京、宮中には詳しゅうございます。いかにすれば、大姫様のこと、速やかにはこぶか。その者共紹介できぬ訳ではございません。すこしばかりお耳を……お貸し下さいませ」

この勝負勝ったと禅師は思う。
 話を聞くうちに、政子の冷たい表情が少しばかり打ち解けて来たことが、禅師にもよくわかった。
「おお、そのような方をご存じか。さすがは禅師殿じゃ」
 京の暗黒界で、清盛の頃から活躍してきた禅師である。
田舎育ちの政子とは、キャリアが違うのである。

(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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